渡邊穣のブログ

おもにヴァイオリンに関する事, 時々その他

音程のとり方:開放弦から逆算する

Paganini Caprice No,8 から第50小節を見てください。

最初の音にDの解放弦があります。前から弾いてくるとこの箇所で開放弦と音程が合わないという経験をしたことがあるはずです。

それはその箇所以前の音程が悪かったというわけではなく、綺麗な音程で弾いてくるとその箇所で開放弦と合わなくなるという原因があるのです。

49小節の最後の音を見てください。Aが次の50小節目のB♭の導音になっておりAとB♭の音が狭くなります。しかしDの開放弦に対して長3度になるB♭は高めにしないと綺麗な音程になりません。そこでAとB♭間をギリギリ広めに取ってみても、まだ足りない程の音程の差があります。

49小節の中でEを高めにとって50小節目に入るという方法をとることになりますが、49小節目の全部の拍にEがあるので徐々に変えて調整を加えるのはやりにくいです。結局、48小節目の最後の部分で49小節の音程を高めに入れるように準備しておく必要があります。

49小節目から50小節目の小節線を越える時のA音の音程に意外と大きな差があることに気が付きましたでしょうか。

音程の取り方 : 開放弦の影響

このブログでは当初から音程の取り方についてをメインにして、和声的音程と旋律的音程の違いと考え方を説明してきました。ちょっと復習してみましょう。

E線(開放のE音)とA線上のgisを重音で弾いてみます。そうすると倍音の低いE音が聞こえます。(倍音については以前に書いた記事を参照してください。) Gis音を微調整してEの倍音が開放弦のE音と合っていればGis音は和声的に正しい音程です。次に、E音とA音を重音で弾きます。聞こえる倍音はA音ですね。これも微調整してA線で弾いている音と倍音のA音が合えば和声的に正しい音程です。

では、A線上で押さえたgisとaを単音でそのままの音程で交互に弾いてみてください。これをa-durと解釈して聴くと旋律的な音程としてはハズれた音程に聞こえます。gisとaが広すぎですよね。a-durに聞こえるようにGis音を高く取って弾いてみましょう。これが旋律的に綺麗な音程ということになります。(旋律的音程の取り方、考え方については過去の記事を参照してください。)

和声的音程と旋律的音程のどちらを選んで弾くべきかはその音程の音価によります。経過音として短い時間で通り過ぎるのか、和音構成音として聞こえる時間を持っているかで考えてください。

弦楽四重奏を演奏していてこのような音程が出てきた場合に、一般的にはその音程が和音構成音として捉えられるのか、旋律を受け持っているかで処理の仕方は変わってくるでしょう。テンポも影響する要因となります。精緻なアンサンブルを構築する第一歩は、この問題の解決と発音感覚の共有です。

Violin は高い音域の楽器で倍音の音程も高くはっきり聞こえます。倍音の影響を受けやすいのです。練習していて何か音程がスッキリしないと感じていたらこの倍音が原因の一つです。

バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ から具体例をあげてみましょう。BWV1003 のFuga の172小節の最後の音と173小節の最初の音を見てください。一般的にD音とE音は開放弦ですね。その両方にH音があります。HとDの倍音はGです。これが純粋な三和音として響くようにH音を調性してみましょう。次の音のEとHの倍音はEです。倍音の低いEと開放弦のE音がオクターブとして合うようにH音を調整します。両方のH音を比べてみると違うことがわかりますね。E線の開放弦は他の音程に対して優先度が一番高いのです。和音を弾いて音程を調整するのに弾く順番に沿って下から作り上げていく人が多いですが、この場合は逆です。

サンサーンスのコンチェルトNo.3の冒頭の和音はGEHEですが、GとEの倍音はCです。HとEの倍音はEです。Eのオクターブが合うようにHを調整してください。EとHを押さえてる位置を見比べてみるとEを押さえてる位置の方が高いですね。これに合わせて指を置くようにすれば良いのです。指が細くて上手くいかない人は指の角度を弓に合わせて回転するようにして対処してください。

調弦においても倍音を聞く方法は有効に使えます。バッハの無伴奏を弾く場合はこの調弦方法が良いでしょう。この調弦方法よりは五度を広く取らないようにしてください。ピアノと一緒に弾く場合は平均律なのでこれより狭く調弦しなければいけません。一番違いが出るのはG線です。弦楽四重奏やオーケストラの場合も皆が同じA音からチューニングしますので狭い五度で調弦します。E線はごく僅かに高めでも良いでしょう。

 

指の練習 「もうーつの方法」

セブシックの op. 1- 1 No. 1 を見ると押さえた指を離さずに残して押さえておくように指示されています。これは基本ですね。

私の訓練のパターンも、先ずは指を残すようになっており、第1指を軸として捉えるようなっています。

難しい曲に取り組むようになると、曲によっては最速で指をまわさなければならない箇所が現れるでしょう。

その時に注意を向けてほしいことがあります。

指を速く押さえることに囚われて、素早く離したほうがよい指が弦の上に残り過ぎていることがあり、本人はそれが原因だと気付いていない場合があるのです。

指を早く離すということを意識して指の訓練をすると、以外と効果があると感じることができるでしょう。

練習の例としては前出のNo,1をすべての指を離して弾く。トリルの練習を使って下音の指を毎回離し、上音の指と交換するように素早く上げる、などが考えられます。

留学先でのアドバイス

留学にあたってのアドバイスを求められました。
音楽とは関係がないことなのですが、ガイドブックには書いてない生活の上で大事な事を挙げておきます。
ドイツ語圏以外でどうなのかはわかりませんが、おそらく同じであろうと思います。

長期滞在の場合、一般的には寄宿舎か下宿ということになるでしょう。これは下宿をした場合のことです。

部屋に専用のシャワー室が付属しているか、もしくは大家さんも使うお風呂場を共同で使うケースが多いと思います。離れのような一軒家を借りる人もいるかと思います。
いずれの場合も、入浴後に風呂桶、ドア、壁、蛇口についた水を一つの水滴も残さず綺麗に拭き取ってください。
私は当初、この習慣を知らずに風呂場をそのままにして出たら、次の日に大家さんに「あなたの家では誰がお風呂場の掃除をするの?」と尋ねられて、トンチンカンな答えをしてしまいました。マナーが悪いと思われてしまったようです。
日本人には馴染みのないマナーですが、実行してください。

最近は留学生でも車を運転する機会が多くなってきたようなので、運転する時の注意点を挙げておきます。
「左ハンドル」「右側通行」は最初からハッキリとした違いなので始めから注意するのですが、「右方優先」を常に意識して注意を怠ってはいけません。
日本での左方優先とは事の重大さが違います。
日本でも左方優先がありますが、実際に交差点の入り方は、僅かに先に進入した方が先に行ったり、様子見をしたりします。ドイツでは相手は優先だと思ったら、ちょっとタイミングが遅れてもかまわずに突っ込んできます。
私の知る限り、毎年どこかで「左方優先」を間違えた日本人の運転による重大事故が起きていました。中には人身事故を起こし懲役になった人もいます。注意してください。

黄色の信号は日本の信号よりかなり短いので「止まれ」と思ってください。

もう一つ大きな違いがあります。日本では車の流れを止めないように運転しますが、ドイツでは信号のない横断歩道に人が立っていたらドイツ人が運転する車は止まります。これは徹底しています。
大きな道路上を走っていても、前に走っている車が突然止まってビックリすることがあります。
車間距離を大きくとって運転してください。
歩行者を無視して横断歩道を突っきれば白バイに捕まることもあります。

初期教育に起因する問題点 (5)

####弓の持ち方 -2-
手の形は顔のように各人が同じ形をしていません。お弟子さん達を見てきて、それぞれの手の形の違いというのは大きいと感じています。  
中にはヴァイオリンを弾くには不利ではないかと思われる人もいますが、その人に合った合理的な使い方に導くと、難曲でも驚くほどにこなせるようになるのです。恵まれた手を持っているのに使い方が悪い人もいます。  

左手のためのエチュードはたくさんありますが、右手の練習のためのエチュードは少ないです。  
そもそも音符に書いてもそれだけでは右手の運動の説明にはなりません。  
現代においても、右手の動きをどうするかという説明は観念的であり、習うより慣れろという状態ではないかと思います。  

動きを言葉で説明するのは残念ながら困難なので、ここでは練習について私が折に触れて言っていることを書きます。  
練習おいて大事なのは何をどう練習するかを考えることです。  
弾いていて間違いが生じると、それは明白な事ですから間違えないように練習しますよね。  
練習を積めば音符を正しく弾けるようになります。間違いは結果であって原因は残っているかもしれません。間違いの原因は何でしょうか。往々にその本当の原因に気付かずに通り過ぎてしまうことがあります。本当の原因を見つけるという姿勢を保っていると、どんな練習をするかという視点も変わります。  
自分の中に感じる違和感に正直に自分に向き合ってみましょう。違和感をねじ伏せるのではなく解消する方法を考えてみるのです。
違和感と間違いは自分の先生だと思ってください。そこから何をどう練習するべきかを知ることとができます。しかし、違和感の原因がどこにあるのかを見つけるためには知識が必要です。  


クレモナ在住の久我さんというヴァイオリン製作者の方のホームページに「子供の時に使う楽器はその人の将来の音楽性を左右する」と書いてありました。同感します。  
私の経験では、自分の音楽が形成される頃に使っている楽器の影響は生涯にわたるような気がします。  
弓の持ち方というのも同じです。将来の音楽性を左右する要素のひとつです。  

私はレッスンで「弓を持たないで」と言う表現を使うことがあるのですが、その意味は必要以上の力で弓を握ってはいけない、ということです。  
では、どのくらいの力で弓を持つのかを説明しましょう。  
弓を縦に持ちます。その状態から指の力を少しずつ抜いていって弓が滑り落ちるようにしてみます。本当に落とさないように左手の手のひらを添えて、その上でやってくださいね。  
弓が滑り落ちる寸前の力が弓を持つのに必要な最低限の力です。  

弓を水平の状態に移すと小指に力を入れ流ことになりますね。弓を空中に持ち上げた時に弓を支えるのが小指の役目です。  
その時に親指にも同等の力が加わっていることに注目してください。  
親指の状態というのは、その他の全ての指の状態を反映しています。  
例えば、親指が八角形のどこの面を押さえているでしょうか。その角度が横になるほど弓をはさんで持っているということがわかります。

初期教育に起因する問題点 (4)

弓の持ち方 -1-

なぜ左手で弦を押さえ、右手に弓を持つようになったのでしょうね。疑問に思ったことはありませんか。
人間はいつの時代から右利きが多かったのかわかりませんが、たぶん、弦楽器発祥の段階では弦を押さえる動きは緩慢だったので、動きが大きい右手に弓を持つことになったのだではないでしょうか。

音量と音色に変化を与えるのは右手の仕事で、その動きは複雑です。
私の生徒に「何のために右手の指や手首をうごかしているの?」とたずねると、「音を柔らかくするため」「弓の返しを綺麗にするため」という答えが返ってきます。
次に私が「その動きは物理的に弦と弓にどんあ作用を及ぼしているの?」と尋ねると、答えは返ってきません。
ボーイングのスタイルは各人で様々ですが、腕の構造は人間皆同様です。そしてボーイングの結果は弓の毛と弦の接点における物理現象です。物理現象は解析し、説明する事ができるはずです。
野球やゴルフなどスポーツの解説を聞いていると、軸足がどうのとか、肘がどうのとか聞きますよね。そこには運動の理論が確立しています。

昔、齋藤秀雄がローゼンストックの指揮を分析して指揮法の本を書きました。その本の功績は指揮の動きを分析し、その動きにひとつずつ名前をつけたことにあります。これにより指揮の様々な動きをその呼び名を使って分類し、説明する事が簡単になりました。
ボーイングは外から見てもわからない、見えないような、かなり微妙な動きを伴っているのですが、その動きの作用を説明することはできるはずです。

さて、今回の本題に移りましょう。
弓を持つ5本の指がそれぞれにどんな役割を主に担っているかわかりますか?
どの指が一番大事な指ですか、と尋ねたらどう答えますか。
それを知るための方法がひとつあります。指を一本ずつ弓から離して弾いてみてください。その時にやり難くなったことがその指の主な役割です。
そこで親指をはなしたら、
無理ですね、親指を離すことはできません。
左手も右手も実は親指が全ての動きの土台なのです。
親指が硬直していると他の指の動きが制限されます。
そして、この硬直状態で弾いてる人が、私の見たところ、意外に多いのです。
その状態というのは、右手の親指が親指が内側に弓なりに反って、もしくは真っ直ぐにまったままで弓を持っている形です。

この持ち方は良くないのです。なぜ良くないか・・。
その説明の前に、自分の親指のフォームを鏡を見るまで気が付かなかった人はいませんか。だとしたら、それも問題ですね。 なぜ良くないか、それは - 指の柔軟性に制限ができてしまう、可動範囲が狭くなる - 弦に対しての圧力の加え方が制限される この二つのことは長い時間をかけて奏者の演奏スタイルに影響をあたえます、音楽性をも左右ます。その結果自分の音楽はこうだ、と思いこませることにまでなります。

親指を内側に反らせると弓をしっかり持つことになり音が大きくなるので、子供の頃から大きい音出そうと努力していた人、子供の頃から良く弾けてコンクールでも入賞するような人が、この親指のフォームになりやすいのです。そのまま成長してしまうと、結果、精神性の強い演奏、などと言われるタイプの演奏家になる傾向があります。弾いている本人自身のボーイングの違和感を打ち消すために強い音楽を必要とするのです。身に覚えがありませんか。

もしくは、逆に、浮かせた音のボーイングを主体とする演奏家になります。

初期教育に起因する問題点 (3)

楽器のサイズは外人用

今回のお話は、自虐的なイントロとなっていますがお許しください。

私は日本にいた若い頃から胴長短足だとはいわれてましたが、気にはしていませんでした。
それがドイツで生活して、いかに自分の手足が短いかを知ることとなったのです。
まず、私よりかなり背の低いドイツ人の小学生が乗っている自転車に乗った時に、私の足が届きませんでした。
大人用の自転車の足が届かないことは知っていましたが、まさか小学生の乗っている自転車にも足が届かないとは、ショックをうけました。 その時の友達の日本人男性も同じ体験をして驚いたそうです。
後に聞いたところによると、子供の体型の方が大人より手足のバランスが長いのだそうです。

次に、洋式の便座の高さに、エッ!、と驚きました。一般家庭に設置してあるものは座る位置が高いです。
逆に、日本に帰国した時にはトイレに座ろうとした時に、後ろに尻もちをついてしまいました。

更に言うと、ドイツの演奏会場に置いてある椅子は、日本人女性の小柄な人には足が届きません。 そういう女性は高いハイヒールを履いています。
私でもその椅子にしっかり奥まで座ると足に余裕がありません、奥行きも深いです。

ある時に同僚に言われました、「君は座っていると大男だけど、立つと小さいね。」・・・
この言葉に私はトドメを刺されました。以来、私は更に猫背で弾くようになってしまったのです。
ドイツで洋服を買う時に、私だけ「袖を切って縮めてください」と、店員さんに言わなければならないこともコンプレックスになってしまいました。

現在、日本のオーケストラの弦楽器首席奏者(チェロ以外の)は、目立つようにやたらに椅子を高くして座っています。
ある東京のオケのコンマスが40年ほど前にやり始めたことなのですが、今では蔓延したみたいですね。 私の体験からは受け入れ難いことです。
(ついでに、昔は指揮者が演奏後にオケの全パートを分けて立たせる、なんてことはありませんでした。誰がどこでやり始めたのでしょうかね。)

最後に。日本のアパレルメーカーが中国で販売する洋服のサイズは、手足のサイズを長くしてあるそうです。

前置きがやたらに長くなりました。
さて、今回の話はボーイング
弓の長さについては、これも外人用サイズでしょう、と言わざるを得ません。

ドイツで仕事をしていた時です。
私と一緒に弾いていた人が弓の先まで弾いていても右肘の角度に余裕があることに気がついたのです。
私は色々な角度からボーイングについて言葉を尽くして尋ねました。
その結果、私が弓の真ん中1/3の、あまり肘を伸ばさないで弾いているのと同じ感覚で、彼は先まで弾いている、ということが解りました。
これは重大な内容を含んでいます。弓の中程では右手の質量が有効に使え、それによりふくよかな音が出て楽な部分です。彼らはその状態がもっと先まで続いているのです。
昔、私がレッスンを受けた、シャンドール・ヴェーグとティボール・ヴァルガがともに言ってました、「日本人はなぜか弓の先で音が痩せる。」

当然ながら、我々日本人は弓の先の部分でのボーイングは、彼らはとは違ったものにならざるを得ません。
弓の元の部分では、腕の長い彼らは長い腕を畳む必要があります。そのようなフォームを日本人に移植するのも良くありません。

シュバルベのレッスンを受けた時に最初に言われ、やらされたことです。
「弓を元先逆に持って弾いてごらん」驚きためらっている私に、「そんなことで弓は折れない、折れたら私のをあげよう、トゥルテだ!」
私が弟子にやらせる時は自分の弓を渡してやらせてます。
これは、いかに弓の元と先の音に対して我々の感覚にバイアスがかかって偏重しているかを知ることができ、ボーイングを考えるヒントとなる方法です。

(右手の技術は、ヴァイオリンの演奏の音楽を創り出す最も大事なものです。そして、意外にも多くの人があまり習ってない部分のようです。右手の動きを文章で表現するのは困難な事柄ですし、個人差があるので万人に同じ言葉を使うこともできません。ですからこのブログでは、結果どうするかということは、取り上げ難いのです。)