渡邊穣のブログ

おもにヴァイオリンに関する事, 時々その他

音程の取り方 : 開放弦の影響

このブログでは当初から音程の取り方についてをメインにして、和声的音程と旋律的音程の違いと考え方を説明してきました。ちょっと復習してみましょう。

E線(開放のE音)とA線上のgisを重音で弾いてみます。そうすると倍音の低いE音が聞こえます。(倍音については以前に書いた記事を参照してください。) Gis音を微調整してEの倍音が開放弦のE音と合っていればGis音は和声的に正しい音程です。次に、E音とA音を重音で弾きます。聞こえる倍音はA音ですね。これも微調整してA線で弾いている音と倍音のA音が合えば和声的に正しい音程です。

では、A線上で押さえたgisとaを単音でそのままの音程で交互に弾いてみてください。これをa-durと解釈して聴くと旋律的な音程としてはハズれた音程に聞こえます。gisとaが広すぎですよね。a-durに聞こえるようにGis音を高く取って弾いてみましょう。これが旋律的に綺麗な音程ということになります。(旋律的音程の取り方、考え方については過去の記事を参照してください。)

和声的音程と旋律的音程のどちらを選んで弾くべきかはその音程の音価によります。経過音として短い時間で通り過ぎるのか、和音構成音として聞こえる時間を持っているかで考えてください。

弦楽四重奏を演奏していてこのような音程が出てきた場合に、一般的にはその音程が和音構成音として捉えられるのか、旋律を受け持っているかで処理の仕方は変わってくるでしょう。テンポも影響する要因となります。精緻なアンサンブルを構築する第一歩は、この問題の解決と発音感覚の共有です。

Violin は高い音域の楽器で倍音の音程も高くはっきり聞こえます。倍音の影響を受けやすいのです。練習していて何か音程がスッキリしないと感じていたらこの倍音が原因の一つです。

バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ から具体例をあげてみましょう。BWV1003 のFuga の172小節の最後の音と173小節の最初の音を見てください。一般的にD音とE音は開放弦ですね。その両方にH音があります。HとDの倍音はGです。これが純粋な三和音として響くようにH音を調性してみましょう。次の音のEとHの倍音はEです。倍音の低いEと開放弦のE音がオクターブとして合うようにH音を調整します。両方のH音を比べてみると違うことがわかりますね。E線の開放弦は他の音程に対して優先度が一番高いのです。和音を弾いて音程を調整するのに弾く順番に沿って下から作り上げていく人が多いですが、この場合は逆です。

サンサーンスのコンチェルトNo.3の冒頭の和音はGEHEですが、GとEの倍音はCです。HとEの倍音はEです。Eのオクターブが合うようにHを調整してください。EとHを押さえてる位置を見比べてみるとEを押さえてる位置の方が高いですね。これに合わせて指を置くようにすれば良いのです。指が細くて上手くいかない人は指の角度を弓に合わせて回転するようにして対処してください。

調弦においても倍音を聞く方法は有効に使えます。バッハの無伴奏を弾く場合はこの調弦方法が良いでしょう。この調弦方法よりは五度を広く取らないようにしてください。ピアノと一緒に弾く場合は平均律なのでこれより狭く調弦しなければいけません。一番違いが出るのはG線です。弦楽四重奏やオーケストラの場合も皆が同じA音からチューニングしますので狭い五度で調弦します。E線はごく僅かに高めでも良いでしょう。