渡邊穣のブログ

おもにヴァイオリンに関する事, 時々その他

初期教育に起因する問題点 (4)

弓の持ち方 -1-

なぜ左手で弦を押さえ、右手に弓を持つようになったのでしょうね。疑問に思ったことはありませんか。
人間はいつの時代から右利きが多かったのかわかりませんが、たぶん、弦楽器発祥の段階では弦を押さえる動きは緩慢だったので、動きが大きい右手に弓を持つことになったのだではないでしょうか。

音量と音色に変化を与えるのは右手の仕事で、その動きは複雑です。
私の生徒に「何のために右手の指や手首をうごかしているの?」とたずねると、「音を柔らかくするため」「弓の返しを綺麗にするため」という答えが返ってきます。
次に私が「その動きは物理的に弦と弓にどんあ作用を及ぼしているの?」と尋ねると、答えは返ってきません。
ボーイングのスタイルは各人で様々ですが、腕の構造は人間皆同様です。そしてボーイングの結果は弓の毛と弦の接点における物理現象です。物理現象は解析し、説明する事ができるはずです。
野球やゴルフなどスポーツの解説を聞いていると、軸足がどうのとか、肘がどうのとか聞きますよね。そこには運動の理論が確立しています。

昔、齋藤秀雄がローゼンストックの指揮を分析して指揮法の本を書きました。その本の功績は指揮の動きを分析し、その動きにひとつずつ名前をつけたことにあります。これにより指揮の様々な動きをその呼び名を使って分類し、説明する事が簡単になりました。
ボーイングは外から見てもわからない、見えないような、かなり微妙な動きを伴っているのですが、その動きの作用を説明することはできるはずです。

さて、今回の本題に移りましょう。
弓を持つ5本の指がそれぞれにどんな役割を主に担っているかわかりますか?
どの指が一番大事な指ですか、と尋ねたらどう答えますか。
それを知るための方法がひとつあります。指を一本ずつ弓から離して弾いてみてください。その時にやり難くなったことがその指の主な役割です。
そこで親指をはなしたら、
無理ですね、親指を離すことはできません。
左手も右手も実は親指が全ての動きの土台なのです。
親指が硬直していると他の指の動きが制限されます。
そして、この硬直状態で弾いてる人が、私の見たところ、意外に多いのです。
その状態というのは、右手の親指が親指が内側に弓なりに反って、もしくは真っ直ぐにまったままで弓を持っている形です。

この持ち方は良くないのです。なぜ良くないか・・。
その説明の前に、自分の親指のフォームを鏡を見るまで気が付かなかった人はいませんか。だとしたら、それも問題ですね。 なぜ良くないか、それは - 指の柔軟性に制限ができてしまう、可動範囲が狭くなる - 弦に対しての圧力の加え方が制限される この二つのことは長い時間をかけて奏者の演奏スタイルに影響をあたえます、音楽性をも左右ます。その結果自分の音楽はこうだ、と思いこませることにまでなります。

親指を内側に反らせると弓をしっかり持つことになり音が大きくなるので、子供の頃から大きい音出そうと努力していた人、子供の頃から良く弾けてコンクールでも入賞するような人が、この親指のフォームになりやすいのです。そのまま成長してしまうと、結果、精神性の強い演奏、などと言われるタイプの演奏家になる傾向があります。弾いている本人自身のボーイングの違和感を打ち消すために強い音楽を必要とするのです。身に覚えがありませんか。

もしくは、逆に、浮かせた音のボーイングを主体とする演奏家になります。