渡邊穣のブログ

おもにヴァイオリンに関する事, 時々その他

初期教育に起因する問題点 (3)

楽器のサイズは外人用

今回のお話は、自虐的なイントロとなっていますがお許しください。

私は日本にいた若い頃から胴長短足だとはいわれてましたが、気にはしていませんでした。
それがドイツで生活して、いかに自分の手足が短いかを知ることとなったのです。
まず、私よりかなり背の低いドイツ人の小学生が乗っている自転車に乗った時に、私の足が届きませんでした。
大人用の自転車の足が届かないことは知っていましたが、まさか小学生の乗っている自転車にも足が届かないとは、ショックをうけました。 その時の友達の日本人男性も同じ体験をして驚いたそうです。
後に聞いたところによると、子供の体型の方が大人より手足のバランスが長いのだそうです。

次に、洋式の便座の高さに、エッ!、と驚きました。一般家庭に設置してあるものは座る位置が高いです。
逆に、日本に帰国した時にはトイレに座ろうとした時に、後ろに尻もちをついてしまいました。

更に言うと、ドイツの演奏会場に置いてある椅子は、日本人女性の小柄な人には足が届きません。 そういう女性は高いハイヒールを履いています。
私でもその椅子にしっかり奥まで座ると足に余裕がありません、奥行きも深いです。

ある時に同僚に言われました、「君は座っていると大男だけど、立つと小さいね。」・・・
この言葉に私はトドメを刺されました。以来、私は更に猫背で弾くようになってしまったのです。
ドイツで洋服を買う時に、私だけ「袖を切って縮めてください」と、店員さんに言わなければならないこともコンプレックスになってしまいました。

現在、日本のオーケストラの弦楽器首席奏者(チェロ以外の)は、目立つようにやたらに椅子を高くして座っています。
ある東京のオケのコンマスが40年ほど前にやり始めたことなのですが、今では蔓延したみたいですね。 私の体験からは受け入れ難いことです。
(ついでに、昔は指揮者が演奏後にオケの全パートを分けて立たせる、なんてことはありませんでした。誰がどこでやり始めたのでしょうかね。)

最後に。日本のアパレルメーカーが中国で販売する洋服のサイズは、手足のサイズを長くしてあるそうです。

前置きがやたらに長くなりました。
さて、今回の話はボーイング
弓の長さについては、これも外人用サイズでしょう、と言わざるを得ません。

ドイツで仕事をしていた時です。
私と一緒に弾いていた人が弓の先まで弾いていても右肘の角度に余裕があることに気がついたのです。
私は色々な角度からボーイングについて言葉を尽くして尋ねました。
その結果、私が弓の真ん中1/3の、あまり肘を伸ばさないで弾いているのと同じ感覚で、彼は先まで弾いている、ということが解りました。
これは重大な内容を含んでいます。弓の中程では右手の質量が有効に使え、それによりふくよかな音が出て楽な部分です。彼らはその状態がもっと先まで続いているのです。
昔、私がレッスンを受けた、シャンドール・ヴェーグとティボール・ヴァルガがともに言ってました、「日本人はなぜか弓の先で音が痩せる。」

当然ながら、我々日本人は弓の先の部分でのボーイングは、彼らはとは違ったものにならざるを得ません。
弓の元の部分では、腕の長い彼らは長い腕を畳む必要があります。そのようなフォームを日本人に移植するのも良くありません。

シュバルベのレッスンを受けた時に最初に言われ、やらされたことです。
「弓を元先逆に持って弾いてごらん」驚きためらっている私に、「そんなことで弓は折れない、折れたら私のをあげよう、トゥルテだ!」
私が弟子にやらせる時は自分の弓を渡してやらせてます。
これは、いかに弓の元と先の音に対して我々の感覚にバイアスがかかって偏重しているかを知ることができ、ボーイングを考えるヒントとなる方法です。

(右手の技術は、ヴァイオリンの演奏の音楽を創り出す最も大事なものです。そして、意外にも多くの人があまり習ってない部分のようです。右手の動きを文章で表現するのは困難な事柄ですし、個人差があるので万人に同じ言葉を使うこともできません。ですからこのブログでは、結果どうするかということは、取り上げ難いのです。)