渡邊穣のブログ

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ヴァイオリン 音程を学ぶ (9)

音階のモヤ靄を晴らす-2-

和声的音程から旋律的音程に変えてみましょう。
前に書いた方法でA線上で、A,H,Cis,Dの和声的音程を取ってください。
CisをD–durの導音として高めに移動させて下さい。
和声的音程からどのくらい移動させたか、その距離を認識しておきます。
Dは確定している音程(主音)なので変えてはいけません。

ラレドシラと弾いて導音のCisに対してバランスが取れるようにHを調整してください。
良いバランスだと思えたら、ラシドレと弾いて確かめてみます。
この時D–durであるという認識を絶えず持ってください。

第7音(導音)は、和声的音程より低い音程は使えません。
和声的音程より高い音程の導音を3種類ぐらい使い分けるようにしてみましょう。
一番高い音程は音階には不向きです。楽曲の中で許される場合にのみ使います。
中くらいの高さを音階に使うようにしてみてください。

次にD線上で、D,E,Fis,Gを和声的音程で取ります。
この音程はD–durのレミファソとしてそのまま使うことができる音程ですが、EとFisはわずかに動かすこともできます。
Fisを僅かに高くしてみましょう。導音のように広い幅で動かすことはできません。
レソファミレの順に弾いて、Fisに対してEをバランスさせるように調整します。
ここでもD–durであるという認識を持ち続けてください。

レミファソラシドレとD–durを弾いてさらに調整してみます。
自分にとって最良のバランスを見つけてください。
A線、D線で取った音程の記憶をしてください。

音程を記憶できたら、違うフィンガリングでも同じ音程で弾けるようにします。
主音、第4音(下属音)、第5音(属音)の音程は変わらないように練習してください。

残念ですが、言葉で説明できるのはここまでです。
実際に音を聞かないとこれ以上の説明ができないのです。

以上は音階練習における旋律的音程の取り方です。次回はアルペジオです。

ヴァイオリン 音程を学ぶ (8)

音階のモヤ靄を晴らす -1-

音階を練習している時には、少なからず音程に不安定な感じが伴うのではないでしょうか。
普通は繰り返し練習して音程を探るか、ピアノに合わせて音程を覚えたりしますね。

ヴァイオリンの習い始めを思い出してください。
最初に開放弦のA音がでてきて、次に1の指、2の指、3の指の順番で出てきますね。
さらに4の指を使うことになり、E線も加わるというパターンが、ほとんどの教則本で同様です。
つまり、主音から始まり第2音、第3音と積み上げて音程をとっていくのですが、そこに不安定感を生む原因があるのです。
主音に対して第2音、第3音は旋律的音程では選択範囲のある音程なのです。
特に、ラシのように主音と第2音の二度間隔の音程は不安定なのです。
不安定なものに不安定なものを重ねても確定したものは生まれません。
これが楽曲の中で和声の裏付けがあると、和音構成音と和声外音の区別ができ、安定感が生まれるのですが、ラシと弾いただけでは根拠が無いので不安定に感じるのです。

最初の練習段階から旋律的音程と和声的音程の使い分けを理解することにより、不安定感を持たずに音階の練習に取り組むことができます。音階の練習が面白くなるでしょう。

A–durを例に使います、1stポジションです。
まず、倍音(うなり音)を使ってA–durの各音程を確定したものにしてみましょう。
長調は基音の自然倍音で構成されている音階です。その考え方で各音程を確定していきます。
この音程を私は和声的音程と呼んでいます。

旋律的音程でも和声的音程でも確定した音程は、主音Aと第5音Eです。
A–durの場合には開放弦になります。

A線のEを開放弦のEと合うように第4指で押さえてください。以前の項でも書いたのと同じです。
読んでない場合は、倍音(うなり音)についての項を先に読んでください。

4の指のEと、E線のGisで長三度をならすと倍音の低いEがなります。
この3個の音が綺麗に調和するようにGis音を調整してください。
調和したらそのGis音は和声的に正しい、確定できる第7音です。

次にこのGisの指を置いたまま、先ほどのA線の第4指EとE線の第3指Aを押さえ完全四度を鳴らして下さい。低いAの倍音が調和するように第3指のAを調整してください。
これで調和したE線第3指のAと、開放弦のAは同じ音程になります。確かめてみてください。

先ほどの和声的音程の第7音GisとAを続けてソラソラと何度か弾いてみてください。
どうですか、Gisの音程を上げたくなりませんか? Gisを少し上げてソラソラと弾いてみましょう。
上げた方が気持ち良くありませんか?
上げた音程は確定した音程ではありません。選択の幅が有る音程です。
どの程度上げるかには個人の好みで変わります。これが旋律的音程の導音としての第7音です。
第7音は和声的音程(ドミナントの第3音にもなります)と、旋律的音程でかなり差のある音程なのです。

次に第6音、Fisと開放弦のAで長6度を鳴らします。聞こえる倍音はDです。 これが調和すれば第6音が確定です。

第4音のDは主音のAと完全4度なので、開放弦のDと同じです。

第3音のCisは開放弦のEと短3度を鳴らします。倍音はAです。

第2音のHは開放弦のEと完全4度を鳴らします。倍音はEです。

倍音の聞こえ方は楽器の固有振動に影響を受けます。 調弦は広すぎないように音程測定機でチェックしておいてください。

これでA–durの確定した音程が揃いました。
これらの音程で音階を弾き、音程の道標として身につけてください。
ただし、第7音は和声的音程と、高めの導音の使い分けが必要です。
次回はこの音程を元にして旋律的音程にしてみましょう。

ヴァイオリン 音程を学ぶ (7)

音程測定機は使い方が肝心

音程測定機は色々と発売されていますが、使い方を間違えないようにしなければいけません。
ほとんどの音程測定機は平均律で設定されていると思うのですが、その説明がないものがほとんどです。
一部の音程測定機に種々の音律と基音の設定ができるものがありますが、そのほとんどはピアノの調律のためのものです。最近はアプリでも十分に間に合うのでスマートフォンを音程測定機の代用している方も多いのではないでしょうか。私はClearTuneとTunable (iPhone iPad)を使っています。

ClearTuneは調律士が使う音程測定機の代用にできるほど良い、と書いてあるのを読んだことがあります。様々な音律が設定できるようになっています。その周波数の表は
http://7tv7dorama.blog.fc2.com/blog-entry-6987.html で見ることができます。各音律の周波数のちがいがわかります。 このアプリにはヴァイオリン用の設定があり、それはピタゴラス音律を使っているようですが、Gが低くなるので、平均律の設定の方がよいでしょう。
(Bachのソロソナタ&パルティータを弾く場合はピタゴラス音律の設定の方が座りが良いです。)

音律の中で参考になるものは、平均律純正律ピタゴラス律、中全律(ミーントーン)です。あえて言うなら、慣れ親しんでいる平均律が使ます。 これらを音律を音階で鳴らしてみると、そのいずれもがヴァイオリンの旋律的な音階としては、どこかに違和感を感じるはずです。

平均律に関して、ウィキペディアの記事ですが、面白いと思ったので載せておきます。 以下のような批判がある。
ジャン=ジャック・ルソーはその著作『近代音楽論究[8]』で十二平均律を批判している。
グスタフ・マーラーは、ミーントーンの調律がされなくなったことは西洋音楽にとって大きな損失だと嘆いた。
フランツ・ヴュルナーは、1875年に発表した『コールユーブンゲン』の序文において、本作の練習の際には初めは楽器を用いずに行い、最後に伴奏を付けるべきであるがその際には平均律によるピアノを用いてはならないと戒め、「平均律によるピアノを頼りにしては、正しい音程は望めない」と批判している。
マックス・ヴェーバーは『音楽社会学[9][10][11]』(1910年頃)で、ピアノで音感訓練を行なうようになった事で精微な聴覚が得られないことは明らかだと記述した。
ハリー・パーチ、ルー・ハリソン、ラ・モンテ・ヤングなど、現代音楽で十二平均律を使用しない試みがなされている。
批判に対する反論
平均律による音響が美しくないという批判に対しては反論もある。まず、和音の各音の周波数比が単純ならば和音が美しいということに根拠はない。4:5:6や10:12:15の周波数比から、平均律程度にずれたことによって、それを美しくないと感じるかどうかを断定はできない。また、もしずれることが美しくないならば、ヴィブラートが用いられることを説明できない。 さらには、たとえばピアノの場合、平均律に調律することによって、単純な周波数比からいくらかずれ、それによってうなりが生じる。それが程良いヴィブラートに感ずるとする論もある。

音程測定機についてもう一点あげておきましょう。
今は販売されていませんが、私はKORGの「マスターチューナー」という音程測定機を持っています。この音程測定機には各音律に加えて、高音域になる程低めに聞こえるという人間の聴覚の生理的特性を加味して表示する設定ができます。
3種類のカーブの強弱の設定ができるのですが、その何れも五線の上のAあたりから上昇し始めています。現実に即した設定だと思います。
コンサートグランドの調律は高音と低音の両端に向かって音程を幾分高く設定するそうです。弦が切れやすくなるのであまり高くはできないのですが、それによって鮮やかに聞こえるようにするそうです。

稀にあることですが、高音の音程を低いのではないかと指摘すると、音程測定機に合っているから正しいと答える人がいますが、使い方を間違えています。

結論です。
音程測定機はAの確認、広すぎる五度にならないよう是正する、良いバランスだと思う音程は平均律から何セントずれているかを確認する。この三つの目的で使うべきです。
ヴァイオリンの調弦は一般的な音程測定機に合った音程で正しいと言えます。

ヴァイオリン 音階を学ぶ (6)

音叉に合わせる

ヴァイオリンを習い始めた時は、自分で調弦ができないので、誰かが調弦をしてあげているはずです。
その後、自分で調弦をすることになりますが、その時点で音程測定機を使わないようにするべきでしょう。
もし、音感がまだ身についていない子が音程測定機を使って調弦をすると聴覚ではなく、視覚を優先して合わせてしまうからです。

音叉で合わせるのが一番良いです。子供に音叉を与えると色々なものに当てて遊びます、それがAの音程を覚えるのに役に立ちます。
楽器の本体には当てないようにしてください。当てるなら顎当てがよいです。
最初は音叉を叩いて耳などに当てるか、響くものに当ててA音を発生させるのを手伝ってあげましょう。
この時にうなり音を聞くということを教えます。音叉と弦の音程がきちんと合うと、うなりは発生しません。
何ヘルツからのうなりが聞こえるのか、という問題がありますが、ここでは触れません。耳を頼りにしてください。
調弦ができるようになってきたら、音叉を自分で鳴らして聴いて、記憶した音程に合わせるようにします。 完全五度の調弦も以前に書いたように、うなりの音程を聴くようにしてください。

何ヘルツの音叉を使うべきか、について私は答えられません。私がドイツにいた時は443Hzでした。
私の先生はアメリカで演奏するときに困るから、という理由で440Hzを使っていました。より低い音程で演奏するのは、その逆よりはるかに難しいからです。
日本では442Hzが一般化しています。
子供の場合は基準音程は一つに統一しておくべきです。家にあるピアノも同じ音程に調律してください。440Hz、441Hz、442Hzのどれかを選択することになります。

ちなみに、絶対音感を持つのが良いとは一概に言えません。私は440Hzの絶対音感を持っていましたが、初めてオーケストラで演奏をすることになった時に、高いAに合わせるのが違和感を感じ、困難でした。また、転調をした時にどうしても固定された絶対音感の虜になってしまうのです。
私の同級生で素晴らしい相対音感を持った人がいました。その人が歌う音階は、どの調性も驚くほど素晴らしい旋律的音程でした。(声で微妙な音程の違いを表現すること自体、簡単にできることではありません。) もちろん、その人がヴァイオリンで弾く音階も美しく、未だにそれ以上の美しい旋律的音程の音階をを聴いたことがありません。

ヴァイオリン 音程を学ぶ (5)

ヴァイオリンの壺

「壺」を国語辞典で引くと「三味線や琴の勘所(かんどころ)」という意味が載っています。ヴァイオリンでは、壺が合っている、とか、壺がずれている、などの言い方で使います。
ヴァイオリンの五度を押さえる位置が4本の弦で横に一直線に揃ってないことを、壺がずれている、と言います。
壺が完璧にあっているヴァイオリンは、たぶんありません。多かれ少なかれずれがあります。

壺がどのようにずれているのかは知っておいたほうが良いでしょう。
では、楽器の壺がどのようにずれているのか見てみましょう。

この場合は音程測定機を使って、各弦のチューニングを正確にして下さい。
次に、音程測定機を使って各弦の1オクターブ上のGDAEを爪で押さえ、鉛筆で印を付け、見てみます。他の音程でも試してみてください。
実際は指の腹で押さえた音程になるので鉛筆で書いたものとは違った感覚になります。

ヴァイオリン 音程を学ぶ (4)

教則本にある嘘?

前回の(続き)の項を読んでくださった方の中には、ここまでやらなくも良いのではないでしょうか、と思った方もいるでしょう。
このブログを読んでくださったご父兄の方から次のようなメールを頂きました。
「ヴァイオリンを習い始めて1年を過ぎました。今もピアノを弾いて音程を合わさせているのですが不安になってきました。」
ご心配いりません。ある有名なチェリストが「平均律の音程で演奏していれば結局、誰にも文句は言われない。」と言っていました。
実際に平均律で弾き通すというのは、人間の生理上、不可能なことだと思います。
しかしピアノとのソナタなどを演奏するのでしたら、間違いとは言えません。
聴衆が聴くのは、第一に音楽であって音程ではありませんから。

私は自分の体験を通して、子供の時に知っていれば悩まなかったのに、と思っていることを書いております。

子供の頃の悩み、まだあります。 子供が使う教則本の第1巻には必ず指板の図が載せてありますね。ドレミファが弦の上に点で記してある図です。綺麗に横に一直線に五度が並んでいますよね。
これは現実には(子供用の楽器では特に)一直線になりません。
私は一直線にならないのは自分のせいだと無駄に悩みました。
一直線にならない原因は指板の形状と駒の形状、弦の太さなどの影響です。
是非、教えておいて欲しい、知っておいて欲しいことの一つです。

ついでにもう一点。左手の持ち方の見本のような写真がでていたりしますよね。
これはほとんどのものが写真のために綺麗にみえるように撮ったものです。
この写真のマネをして弾くのは間違いのもとになります。

ヴァイオリン 音程を学ぶ (3)

音程には優先順位があります(続き)

ヴァイオリンの開放弦を基音にして長音階を弾くと、調性はG–dur、D–dur、A–durが成立します。
この場合、主音と属音は開放弦です。どの調でも左指の間隔は同じですね。
要するに長音階は主音と属音の上に同じ間隔で、全音-全音-半音の間隔で並んでいます。
このパターンを一つの単位として使います。
A線ではA–B–Cis–Dとなります。このCisはA-durでは下属音、D-durでは導音ですね。

さて、ここで題に掲げた倍音の話をしなければなりません。倍音の基本的説明は省略します。
今回のテーマでは、二つの音程を鳴らした場合に生じるうなりのことを倍音と呼ぶことにします。
倍音は実際には弾いてない音程がどこから聞こえてくるのかわからないような感じで耳の中で鳴ります。
私は子供の頃、この倍音が単音を弾いている時も耳の中でガンガン鳴っていました。
「弾いていると耳鳴りがするんだけど」と尋ねたこともあったのですが、正しい答えは得られずに、自分では雑音ということにして気にしないようにしていました。(残念なことです)。

+ちょっと話が脱線します。ヴァイオリンから超低音を聴くことができます。
まず二つの弦で一度の同音のユニゾンを弾いてみてください。
それから片方の指を少しずつずらして音程を変えていきます。
半音の隔たりに到達すつ前あたりからオルガンのペダル音のような音が聞こえてきます。
これがこのテーマで言うところの倍音です。最初はE線とA線で試してみてください。
低い音程で試すと倍音が聞き辛くなります。

では、A-durを使って実際に旋律的音程と和声的音程はどのくらいの差があるのか聴いてみましょう。
まず、AとEの完全五度を正しく調弦してみましょう。
AとEの完全五度を弾いた場合に聴こえる倍音は低いAです。
E線のアジャスタをゆっくりと回してみてください。低いAの音が聞こえますか。
その倍音のAの音程をA線の音程と完全なオクターブになるようにチューニングしてください。
これで完璧な完全五度の完成です。
(前に書いたように実際には、様々な要因があって、コンサートではEは高めにチューニングされます。
このことについては後日「音程測定機」の項目の中で触れる予定です。)

音程測定機にA2, A3のようにオクターブの表示があるものを持っていたら、使ってみてください。
A線を単音で弾くとA4と表示、E線と一緒に完全五度を弾くとA3と表示されます。
これは音程測定機の特性で低い方の音程に、この場合、倍音に反応しているのです。

A線上で第4指でEを弾きます。開放弦のEとピッタリに合わせてください。
第4指のEと長三度のGisの和音を弾きます。この場合はEの倍音が聞こえます。
弾いているE、Gis倍音のEが協和するようにGisを調律してください。
(うまくいかない場合は、同じことを5度下げて試してください)。
このGisが基音Aに対して正確な和声的音程のGisです。
次は、Gisの指を置いたままE線のAを弾いて開放弦のAに合わせてください。
最後に、このE線上のAとGisを弾いてみましょう。
どうですか、Gisはは旋律的には低すぎてこの二度関係は綺麗に聞こえませんね。
では、旋律的音程としてのGisはどのくらい高くすれば良いのでしょうか。
それには答えはありません。確定できないからです。

ヴァイオリンの音程の優先順位はA-D-Cis-Hです。
AとDは常に確定しています。Cisは下属音か導音か、旋律的音程か和声的音程かで変化します。
Hは他の音にバランスさせます。
ラレドシラと弾いて一番美しいと思える音程を作ってみてください。

何の音が倍音として聞こえるかは、二つの音を弾いてそれを長三和音に当てはめて考えます。
その根音が聞こえるのです。
しかし、実際は楽器の固有振動に影響を受けて他の倍音が大きく聞こえることが多々あります。
長三和音に当てはまらない音程関係はこの方法がつかえません。